現代社会における高齢者
現代社会における高齢者

現在のわが国では、平均寿命が延びたことと少子化の影響による人口構造の高齢化が進んでおり、2014年10月時点で65歳以上人口が3300万人(総人口の26.0%)、75歳以上人口だけでみても1592万人(12.5%)となっている(『高齢社会白書(平成27年版)』。「人生80年時代」と「少子高齢社会」の到来は、公的年金、医療保険をはじめとする社会保障、社会福祉のあり方や、高齢者の生活状況に対する社会的関心を高めている。また、現在の高齢者は「人口学的世代」という観点(落合2004)からみると、多産多死社会から多産少死社会へと移り変わる時代に生まれ育ち、子育て期を通して少産少死社会への移行を経験した「人回転換期世代(1925~50年ごろ生まれ)」にあたる人びととして特徴づけられる(きょうだい数は平均4人、子ども数は平均2人)。その中でも最後の世代とされ、 また人口規模の大きい「ベビーブーマー(1947~49年生まれ、いわゆる団塊の世代)」の多くが退職を迎え、高齢者の多くを占めるようになっている。

高齢期(または、老年期)とは、ライフステージのカテゴリーのひとつであり、加齢とともに生じる身体的・精神的な変化や退職などによる社会的役割の変化といった諸側面から把握される。年齢という条件は、あくまで1つの目安であり絶対的な基準ではないが、65歳以上の人口比率が高齢化の指標とされてきたこともあり、各種統計資料では、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼ぶことが多い。年齢によつて一概に決められないとはいうものの、戦後のわが国において、ライフステージとしての高齢期は平均寿命が延びたことによって長期化したといえるだろう。長期化とともに高齢者の多様性も指摘されるようになり、「扶養の対象」という側面だけでなく、社会活動の活発な側面が「新しい高齢者像」として注目されている。

高齢者の世帯構造の動向と地域性

従来、高齢者の家族構成は、親夫婦と1組の既婚子夫婦(その多くは長男夫婦)と孫によって構成される3世代家族(=直系家族)が主流とされ、親と既婚子は別居することが多い欧米諸国と対比されてきたが、そうした状況は近年、ずいぶんと変化しているようにみえる。家族構成を把握するための資料として、世帯構造の動向を挙げることができる。世帯は居住と生計を同一にしている集団であり、同居家族員と重なる部分が多いことから、家族構成を探る主要な手がかりとされてきた。

65歳以上の者がいる世帯について、1975年と2014年を比較してみると、総世帯数の大幅な増加とともに、過半数を占めていた3世代世帯の比率が大きく減少し、単独世帯、夫婦のみ世帯、親と未婚の子のみの世帯の比率が増加していることがわかる(表6-1)。2014年について、75歳以上の者がいる世帯に限定してみると、総世帯数は1253万3千世帯であり、その内訳は単独世帯25.7%、夫婦のみ世帯254%、親と未婚の子のみの世帯16.0%、3世代世帯17.4%、その他の世帯15.5%となっている。3世代世帯の比率がやや高くなっており、後期高齢期における晩年型同居の可能性が示されているが、それでも夫婦のみ世帯や単独世帯の比率は高く、特に単独世帯の動向は注目すべき点といえる。

また、市郡別に比較してみると(2014年)、いずれも夫婦のみ世帯の比率が最も高いが、市部では単独世帯、郡部では三世代世帯の比率が高くなっている。郡部で3世代世帯の比率が高くなる背景としては、土地・住宅事情とともに、郡部に多く所在するわが国の農家が家族経営を維持するために直系家族を強く志向することが挙げられる。ただし、地域性という点では郡部と市部以外の観点もあり、たとえば、都道府県別にみた場合、「東北日本」では親夫婦と跡取りとなる既婚子夫婦が同一世帯を形成することが多く、「西南日本」と「大都市圏」では、親夫婦と既婚子夫婦が別世帯を形成することが多いと指摘されている(清水2004)。郡部の中には、過疎化が極端に進み、高齢者のみの世帯が多くを占めている地域もある。こうした現状は、高齢者の家族構成を考える際に、地域的特性(産業構造や地理的条件、歴史、文化、慣習等)に配慮すべきことを示唆している。

地域的特性の影響を無視できないものの、世帯構造の動向からみた高齢者の家族構成の全般的な動向は、親と既婚子間の別居化の進展としてまとめることができるだろう。

家族構成の背景や内実の多様化と直系家族制

高齢者の家族構成の動向について、もう少し詳細にみていくと、家族構成の背景や内実の多様化に着目する必要性が浮かび上がってくる。

単独世帯や夫婦のみ世帯の増加は、既婚子との別居という選択肢が十分に確立していることを意味している。その背景としては、そもそも子どもがいないケースのほか、親子双方の通勤事情や住宅事情などによって、やむをえず別居せざるをえないケースもあるが、特に現代的な動向として、一定の経済的余裕や健康状態を維持していることにより、あえて別居するケースを挙げることができる。

全般的には、親と既婚子の間で別居化が進んでいる。しかし、一方で、親と未婚の子のみの世帯が増加しているのである。このような現状を観察する上では、単に親子別居が進むという視点で観察するのではなく、別の構造変化が進行しているという視点から観察する必要がある。

その背景としては、子どもの未婚化・晩婚化を挙げることができる。高齢者の親が同居未婚子を養っているケースもあるが、逆に子どもに扶養されているケースもあることを理解しておくべきであろう。今後、未婚子を養っている場合は将来的な生計の維持という点から、扶養されている場合は既婚子夫婦による扶養との相違という点から取り上げていく必要性が高まってくる。

3世代世帯の比率は大きく減少したが、高齢者のいる世帯総数自体が大きく増加しているので、実数はもう少しゆるやかに減少している。家族社会学では、同別居規則(と相続規則)からみた、直系家族制の維持か夫婦家族制の浸透かというテーマがあり、戦後、わが国では直系家族制の日本的典型としての「家」制度の廃上のあと、欧米の家族をモデルとした夫婦家族制が浸透したといわれてきた。しかし、出生コーホート(同時出生集団)を主要な分析単位として、歴史的、時代的な背景を考慮しながら個々の人生における家族関係の推移に着目するライフコース論の立場からは、戦後日本における直系家族制の維持が指摘されている。

それによると、戦後、核家族世帯が多かったのは人回転換期世代にきようだい数が多かったからであり、結婚をきっかけに子どもは親夫婦と別居するが、「跡取り」となる既婚子夫婦の多くは数年経った後に親夫婦と同居する傾向があったという(安藤2004)。「家」の維持を目的にした義務としての同居規範は弱くなったものの、親子間の愛情の表れとして既婚子の誰か(長男夫婦のほか、長男以外の息子夫婦や娘夫婦も含まれる)が親と同居し何かあれば面倒をみようという意識は強く、そのことによつて直系家族制自体は維持されていたのである。このような親との関係を経験してきた人回転換期世代の人びとが高齢者となった現在では、そもそも同居対象となる子ども数がかつてに比べて減少しており、 これまで以上に直系家族制の維持は難しくなると予想される。しかし、単純に衰退する一方かというと不透明な部分もあり、経済面、健康面等で余裕がある場合は親と既婚子双方で別々の生活をしていたとしても、扶養や介護の問題が発生したときに同別居について判断が迫られ、結果として一定程度、直系家族制が維持される可能性はある。

高齢者の家族構成を規定する家族規範について、90年代以降、直系家族規範と夫婦家族規範が同一個人においても並存しているという現状認識のもと、一貫した価値規範に沿って行動するのではなく、状況に応じて、適当な規範が「福祉資源やそれに対する家族危機への対応という老親子の相互作用によつて具現化」するという指摘がなされている(杉岡1996)。つまり、同別居の問題が浮上したときに、利用可能な社会福祉サービスの種類や親子間の諸条件(居住環境や経済的条件、相性、将来的な遺産相続に対する考え方などを挙げることができる)を背景にして展開される相互作用の中で、適当な家族規範が具体化、現実化してくるということである。今後、高齢者の家族構成の全般的推移とともに、それぞれの家族構成が変化していく過程にも注目していく必要がある。