高齢者と家族の関係性については、特に子ども(成人子)との関係性が注目されてきた。従来、3世代世帯が多くを占めていたなかで、「同居子との濃密接触と別居子(他出子)との疎遠な交渉」という特徴が指摘され、3世代同居は少ないものの、別居子(他出子)との日常的な交流が数多くみられるという欧米諸国の特徴と対比されてきたが、この点について、単独世帯や夫婦のみ世帯の増加に伴う、わが国の現代的動向を整理してみよう。
子・孫との付き合い方について、内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(対象者は60歳以上の男女)をみてみると、かつては「いつも一緒に生活できるのがよい」が多くを占めていたが、しだいに「ときどき会うのがよい」の比率が高まり、2010年では最も多くなつていることがわかる。一定の距離感を望む高齢者の増加が指摘できるが、その背景として、3世代世帯の比率自体の減少が影響していることも考えられる。
子との関係性
総務省「住宅・土地統計調査」(2008年)によると、65歳以上の単独世帯と夫婦のみ世帯(夫婦ともにまたはどちらか一方が65歳以上)の合計928万世帯のうち、「準同居」「近居」「片道1時間以内」の子どもがいる比率の合計は45.1%となっている(総務省統計局2011)。また、別居子(他出子)との交流頻度について、内閣府「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2010年)の結果をみてみると、別居子(他出子)と週に1回以上会う比率は、「同居子あり」が45.9%、「同居子なし」が56.5%となっていた。
ここから指摘できるのは、一概に「別居子(他出子)との疎遠な交渉」というわけではなく、親子の同別居形態に多様性がみられ、特に同居子のいない単独世帯や夫婦のみ世帯の場合、通える範囲に別居子(他出子)がいたり、欧米諸国ほどではないものの、それなりに別居子(他出子)との交流が維持されているということである。特定の別居している既婚子夫婦との間に相互の交流が集中しているようであれば、それは直系家族の延長として把握することができるだろう。しかし、別居している既婚子夫婦が双方の親夫婦と頻繁に交流しているケースゃ、交流の頻繁な別居子(他出子)が複数だったり、未婚子であることも考えられる。親夫婦と子夫婦が近居し、相互に交流している家族の集団形態を修正拡大家族というが、これにあてはまるケースもあるだろう。
しかし一方で、双方の家族の自立性の高まりに着目するならば、1つの集団としてよりも、複数の個人や集団によって構成されるネットワークとして把握する方が適切であるとの見方も可能であり、こちらに該当するケースもあると考えられる。特に単独世帯の家族関係を探る際には、この視点が有効であろう。もちろん遠距離にしか別居子(他出子)がいない、あるいは、そもそも別世帯となつている子がいない.さらには、別居子(他出子)との交流が少ない高齢者の単独世帯や夫婦のみ世帯が相当数みられることも確認しておく必要がある。交流頻度が少ないからといって「疎遠である」とは必ずしもいえないが、何かあったときの不安要因とはなるだろう。
同居子がいる場合は別居子(他出子)との交流頻度が相対的に低くなっており、同居子との密接な関係が推測される。だが一方で、現実の同居子との生活に目を向けてみると、ほとんどの高齢者は専用の居室を確保しており、親子双方でお互いの生活スタイルを尊重する傾向が強くみられるようになっている。また、家計も完全に一緒というわけではなく必要に応じて協力するケースが多くなっており、これらは同居子との一体性が強いという意味での「同居子との濃密接触」からの変化を示唆している。
高齢者と子どもの現代的関係性は、総じて、親子間である程度の自立性を確保する傾向にあるといえるだろう。子どもとの関係が疎遠なために「自立せざるをえない」高齢者の存在を決して看過してはならないが、そうした状況を把握するためにも、同居家族・親族とともに、別居家族・親族も視野に入れることが必要不可欠となっている。特に単独世帯の高齢者がどのような家族・親族関係を形成しているのかは、現状を的確に把握する上で重要性を高めているといえよう。
親子間におけるある程度の自立志向がもつ意味
親子間における一定の自立志向とでもいうべき関係性は、高齢者と家族の関係性に新しい面をもたらしている。ここでは5点ほど挙げておきたい。
第1に、高齢者が「祖父母」として期待されることの多い家族内役割の変化である。第5章でも述べられているように、従来、祖父母の家族内役割として、経済的援助役割、教育的役割、伝承的役割、精神的役割等が挙げられてきたが、それ以上に強調されていたのは、多くの高齢者が、「養う者から養われる者へ」という「役割逆転」を経験するということであった(森岡・望月1997)。高齢者のある程度の自立志向は、役割逆転の時期の先延ばしとともに、特に前期高齢期における祖父母の家族内役割として、従来からの役割に加えて「できる範囲で」という条件付きではあるが、孫のいる子どもに対する育児援助役割(孫のいない未婚子、既婚子に対しては、「親」としての生活援助役割の長期化)を生み出している。この点に関連して、近年、「孫育て」に関するプログラムの実施や「孫育てガイドブック」を掲載している自治体があり、祖父母としての育児援助役割を支援する活動がみられるようになっている21。その一方で、新聞記事等では祖父母世代の過剰負担について指摘するものもあり(「孫の世話 祖父母消耗 体力、経済的に負担大」読売新聞2014年7月1日)、個々の家族にとって適切な距離感、役割分担を見出していくことが求められているといえよう。
第2に、親子間で一定の自立性が高まっている状況は、相対的に夫婦関係の重要性を高めていく。内閣府「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2010年)の「心の支えとなつている人(複数回答)」を尋ねた結果をみてみると、全体としては「配偶者・パートナー」が最も多く、特に夫婦のみ世帯、夫婦と未婚の子のみ世帯では9割以上の方が挙げていた。3世代世帯では「子ども(養子を含む)」という回答が他の世帯類型よりも多く(71.3%)、「孫」を挙げる方も他の世帯類型に比べて多い。単独世帯では「子ども(養子を含む)」が最も多く(52.3%)、次に「親しい友人・知人」「きようだい」となっていた(それぞれ21.2%、19.9%)。世帯類型ごとの特色が強くみられるが、少なくとも配偶者・パートナーがいる場合は、当然のことながら夫婦関係が重要になっている。
夫婦の役割関係について、同調査の中で高齢者自身が挙げている家族的役割(複数回答)を尋ねた結果、男性は「家計の支え手(53.0%)」「家族・親族の相談相手(37.9%)」「家族や親族関係の中の長(まとめ役)(42.1%)」であり、女性は「家事を担う(83.5%)」「家族・親族の相談相手(28.4%)」となっており、家庭内(あるいは夫婦間)における性別役割分業の実態が垣間見える。高齢期にある多くの夫婦は、長年の生活習慣があり、それを保持する傾向があると思われるが、退職や病気などを契機にして、夫婦のあり方を再構築しなくてはならない状況が出てくることもあるだろう。高齢期の夫婦間関係への注目は、扶養、介護、死別、相続などを論じる際に、子世代の視点(たとえば「老親との関係」という視点)を中心に議論されがちな状況からの転換を促している。
第3に、階層的要因の影響に着目する必要性が高まるであろう。社会階層とは社会的不平等を把握するための概念であり、所得、学歴、職業、資産などによって把握される。親子間における一定の自立性確保の背景には、高齢者が全般的にある程度の経済的余裕をもっていることが推測されるが、それゆえに、逆に余裕がない場合は関係性も子どもに対して依存的になることが予想され、 さらに高齢者本人の所得や資産が少なく、子どもの側にも経済的に余裕がない場合は、同居したくてもできない結果としての別居、頼りたくても頼れない結果としての疎遠な関係性が出てくることも考えられる。近年、高齢者の経済状態について、所得格差が他の年齢層に比べて大きい傾向や、65歳以上の生活保護受給者の増加(2013年で88万人)と、65歳以上人口に占める生活保護受給者の割合(2.76%)が全人口に占める割合(1.67%)よりも高いことが指摘されており、高齢者の貧困問題が新たな社会的課題となっている(『高齢社会自書(平成27年版)』)。
第4に、「人回転換期世代」という点からみると、 きょうだい関係への視点が必要となってくる。高齢者のきようだい関係については、電話や手紙のやり取りといった間接的接触が「老化の受け止め方」や「精神的安定」にプラスの影響を与えており、「社会化のエージェント(=老いの認識や老いへの対応方法を支える関係)」として位置づけられることが指摘されている(吉原2006)。高齢期になって親子関係や夫婦関係が一段落したときに、きょうだい関係が活性化したり、逆に、 コンフリクトが生じたりすることがある。きょうだい関係が高齢期のサポートネットワークとして機能する可能性もある。
第5に、家族・親族以外の社会関係との関わりに目を向ける必要性である。近隣関係や友人関係等の諸関係のほか、社会的活動を通して形成される諸関係は高齢者にとって重要性を高めているといえよう。高齢者の社会的活動としては、趣味や余暇活動、地域活動やボランテイア活動、仕事の継続等を挙げることができる。また、高齢者の雇用について、人材育成の面で長期的視点に立った企業による取り組みや政策展開が必要であることを指摘する議論もあり(高木2008)、経済状況の影響のほか、若年層の雇用との関連も含めて、今後の動向に目を向ける必要がある。
一定の自立志向は、一方ではこのような社会活動の活発な高齢者の姿と結びつくが、他方では、孤立化の潜在的要因としても把握される。高齢者の社会的孤立は、孤独死や詐欺被害の背景的要因のひとつになっていると考えられる。また、近年、高齢者の検挙人員(特に窃盗犯)の増加がみられるようになっており、犯罪の背景として希薄な社会関係や生活困窮、加齢による自己統制力の低下等が挙げられている。引受人がいないために帰住先の確保ができない高齢受刑者が増加していることも示されており、地域社会や社会福祉による支援の必要性が指摘されている(『犯罪自書(平成20年版、25年度版)』)。いずれにしても、 さまざまな社会関係との関わりが重視されるようになっており、家族関係のあり方とも関連づけることができるであろう。現代社会における高齢者の家族関係は、思いのほか変化に富んでおり、それを的確に把握していくための工夫が求められる。
